2025年5月30日、自民・公明・立憲の3党が提出した「基礎年金の底上げを含む年金制度改革法案」が衆議院を通過しました。
年金にかかわる重要な法案のため、あらためてこの場で説明します。
まず、年金については5年に1度、財政検証が行われます。この制度は「いつか日本の公的年金が破綻するのではないか。」という不安が取り沙汰されているため、定期的に年金財政の状況をチェックする制度です。
この財政検証は、前回2024年8月に実施されたのですが、その時点での年金財政は全く問題ありませんでした。しかし、公的年金(厚生年金・国民年金)のうち国民年金については、2040年代半ばまでに給付水準が最大30%下がる”可能性がある”ことが指摘事項に含まれていました。
そのため、次回(2029年)以降の財政検証で、万が一、給付水準が下がると判断された場合を想定して、今のうちの法的整備を進めておこう。というのが今回の年金制度改正法案になります。
要するに、現時点で国民年金の給付額が下がるということが確定したわけではありませんが、2029年以降の財政検証の結果によっては、この制度が発動されるかもしれない。ということです。
次に、次回(2029年)以降の財政検証で、給付水準が下がると判断された場合、国が国民年金を補填することになるのが、今回の法案になります。そして、その時の財源としては「国庫負担(税金)」と「厚生年金の積立金の一部」の組み合わせになります。
なお、実際にいくらの補填額が必要になるかは、次回以降の財政検証結果を待たなければ確定しません。今後の景気や賃金の動きなどによって大きく変わってきます。
ここでポイントなのが、「厚生年金の積立金の一部」を財源として使おうとしている点です。厚生年金を財源として使用してしまうと、第2号被保険者(いわゆる会社員と公務員)が積み立てた年金を、第1号被保険者(自営業者や厚生年金に入れないパート労働者等)を含めた全ての年金受給者に使うことになるので、年金制度としての「公平性」が著しく損なわれることとなります。
なお、一時、与党・自民党は上記理由により、この基礎年金底上げ措置を盛り込まない方針でいましたが、野党側から修正を求める声があがり、基礎年金の底上げを含む年金制度改正案となりました。
ちなみに、今回の「年金制度改革法案」においては、上記の「基礎年金底上げ」以外にも制度改正があります。
例えば、社会保険の加入対象が中小企業や個人事業所にも拡大されて厚生年金に加入できる人が増えたり、在職老齢年金制度変更で働く高齢者が年金を減額されにくくする仕組みが導入されたりします。
特に、厚生年金に加入できる人が増えることにより、これまで国民年金だけだと生活が心もとないところがありましたが、パート労働などで働く人が厚生年金加入によりカバーされることは老後の準備という点でもいいことで評価できると思います。
この「基礎年金底上げ」については、上述したとおり年金制度としての「公平性」が損なわれる問題があります。特に現在の60歳代以降で厚生年金加入者の方々(及びその配偶者の第3号被保険者の方々)は、現行の厚生年金制度をベースに老後設計をしてきたので、今更、年金制度を変えられてしまうと国政に対する「不信感」が強まってしまいます。
一方、現在の40~50歳代のいわゆる「氷河期世代」とされている方々にとっては、正社員となれずにパート労働などで働いてきたため、厚生年金に入れず国民年金に頼る生活となります。この世代の方々が老後を迎えるころに国民年金の給付額が下がるとなると老後の生活が成り立たなくなるため、国民年金の「持続性」は非常に大事なことであり、万が一の対策は打っておくことに越したことはありません。
なお、もっと若い世代の方々は、老後を迎えるまでには十分に時間があります。制度変更後の年金制度を十分に理解をし、早いうちから老後も含めた人生設計を考えていきましょう。これまでは、世帯主が第2号被保険者として厚生年金に入り、その配偶者は第3号被保険者として国民年金入るという世帯が多かったですが、共働き世帯も多くなってきている中で、今回の制度変更により厚生年金に加入できる対象企業も拡大されるため、夫婦ともに厚生年金に加入するという世帯が一般的になってくるかと思います。
最後に、個人的な意見を記載しますが、今回の制度変更で、年金制度の「公平性」が損なわれてしまうのは残念に思います。
いわゆる「氷河期世代」の方々が老後を迎えるまでにはもう少し時間があるため、現時点で早急に制度変更をするのでなく、もう少し変更内容の議論を深めて、どう国民年金の「持続性」を維持していくかを検討するのと合わせて、もっと丁寧な説明をして国民の理解を深めていくことが重要ではなかったかと思います。
年金制度は、長生きしてしまうリスクに対して「安心」を与える保険制度であるため、制度自体の信頼を損なうような事は絶対に避けていただきたいので、これからの対策に期待したいと思います。
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