この記事では相続税について説明します。
相続税の計算(概要)
以下に相続税の計算方法について概要を説明します。
少し複雑なので、何段階かのステップを踏みつつ、まずはなるべく簡易に概要だけを説明します。
相続税に算出は、下記に説明する内容以外にもいくつかの制度があるので、実際の計算の際には専門家などに相談をしましょう。
ステップ1:課税遺産総額の計算
まず最初に、被相続人の遺産から、課税遺産総額を計算します。
亡くなられた方なので見落としが発生しやすいのですが、見落としている財産があると相続税を正確に把握できないため、まず相続税の対象となる財産(課税財産)を明らかにする必要があります。可能であれば、亡くなられる前に財産の内容をうかがっているとよいのですが、わからない場合は専門家などにも相談しながら確認しましょう。
主なものとしては、現金や預貯金、株式や債券などの有価証券、ご自宅などの不動産、生命保険、および借入金などです。
課税財産が把握できたら、課税財産から基礎控除を差し引き、課税遺産総額を算出します。
- 課税遺産総額=相続税の対象となる財産(課税財産)-基礎控除(※)
※ 基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
基礎控除額を減額したことによって課税遺産総額がゼロになった場合、相続税を申告する必要はありません。上記計算式によって課税遺産総額がプラスであれば、次のステップ2に進みましょう。
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことをいいます。
まず、被相続人の配偶者は常に相続人となります。
その後は、被相続人に子がいる場合は、子が第1優先となり、子と配偶者が相続人となります。
子がいた場合でも、子が先に亡くなっている場合は、直系卑属(孫・ひ孫等)が相続人となります。
被相続人に子がいない場合は、第2優先として被相続人の直系尊属(父母・祖父母等)と配偶者が相続人となります。
被相続人に子も直系卑属(孫・ひ孫等)もおらず、直系尊属も亡くなっていている場合は、第3優先として被相続人の兄弟姉妹と配偶者が相続人となります。
ステップ2:相続税の総額の算出
課税遺産総額が算出でききたら、課税遺産総額を法定相続分で案分します。
例えば、配偶者と子が2人の場合、配偶者の法定相続分は課税遺産総額の1/2で、子が残りの1/2を案分します(子が2人なので 1/4ずつになります)
もし、配偶者と直系尊属(父母等)であれば配偶者が2/3、配偶者と兄弟姉妹であれば配偶者が3/4となり、同様に残りの遺産額をほかの被相続人で案分します。
その後、法定相続分で按分したそれぞれの相続税額に下記の税率を適用させ、各人の相続税額を算出します。
ステップ3:各相続人個々の税額計算
最後に相続税の総額を、各相続人個々が実際に受け取る相続額で案分します。
これは、上記のステップ2では「”仮に”法定相続分で相続したとして、相続税の総額を計算した」のですが、実際に各相続人が相続する割合に応じて、相続税を負担する形にします。なので、実際に相続する資産額で相続税総額を案分してください。
案分後、各人の相続税額に配偶者控除、障害者控除、未成年者控除等の各種控除があれば、それを適用して各相続人の相続税額を確定します。
・配偶者控除
「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは配偶者に相続税がかからないという制度です。
・障碍者控除
相続人が85歳未満の障害者である場合、相続税から一定の額が控除されます。
一般障碍者の場合、85歳になるまでの1年につき10万円。特別障碍者の場合、85歳になるまでの1年につき20万円の控除があります。例えば、相続開始時点で43歳の場合、85歳になるまで43年間あるので、一般障碍者の場合で430万円の控除額となります。
・未成年者控除
相続人が相続開始時点で未成年(18歳未満)である場合、相続税から一定額が控除されます。具体的には、18歳になるまでの1年につき10万円の控除があります。
例えば、相続開始時点で15歳の場合、18歳になるまで3年間あるので30万円の控除額となります。
相続税の計算(実際の計算)
では、具体的な相続税の計算例を見てみましょう。
上記の概要で説明しきれていない点もありますので、少し補足をしながら説明をしていきます。
ステップ1:課税遺産総額の計算
例えば、遺族が配偶者と子供2人の場合で、以下の相続財産があったとします。
・現金・有価証券が2000万円
・土地・建物が4000万円
・死亡保険金が3000万円
・借入金として200万円
また、死亡後の葬式費用として300万円を支出したとします。
この時に課税遺産総額を計算してみます。(ステップ1)
・相続財産として、現金・有価証券(2000万円)と土地・建物(4000万円)で、合計6000万円
・みなし相続財産として、死亡保険金3000万円
(被相続人の死亡をきっかけとして財産となるため、みなし相続財産と言われます。)
・負の遺産である借入金の200万円は課税価格から控除できます。
・葬式費用の300万円は課税価格から控除できます。
⇒上記の例の場合、法定相続人が3人(配偶者と子供2人)のため、500万円×3にん=1500万円が非課税となります。
上記の場合、課税価格は以下の計算となります。
【計算式】
課税価格 = 相続財産 + (死亡保険金-非課税枠) - 債務 - 葬式費用
=相続財産(2000万円+4000万円)
+死亡保険金(3000万円)-非課税枠(500万円×3人)
-借入金(200万円)
-葬式費用(300万円)
=7000万
が課税遺産総額となります。
更に、ここから基礎控除(3000万+600万×法定相続人数) = 4800万が差し引かれるので、
遺族が手にする7000万の遺産に対して、7000万円 - 4800万円 = 2200万円部分しか相続税がかからないことになります。
なお、基礎控除を差し引いた時点で0円以下となる場合には、相続税を支払う必要はありませんので、以下のステップ2以降の計算は不要となります。
ステップ2:相続税の総額の算出
次に、相続税の総額を計算します。(ステップ2)
上記ステップ1で計算した、課税遺産総額2200万円を法定相続分で案分します。
配偶者と子供2人の場合、配偶者が1/2、子が1人あたり1/4となりますので、法定相続分に応ずる取得金額は以下になります。
・配偶者:2200万円×1/2=1100万円
・子(A):2200万円×1/4=550万円
・子(B):2200万円×1/4=550万円
上記の場合の税額は、下記の表に基づき以下になります。
・配偶者:取得金額(1100万円) × 15% – 50万円(控除額) = 115万円
・子(A):取得金額(550万円) × 10% = 55万円
・子(B):取得金額(550万円) × 10% = 55万円
⇒ 上記の税額を合算して、合計で「225万円」が、このご家族の相続税の総額となります。
ステップ3:各相続人個々の税額計算
最後に、各相続人個々が支払う相続税を計算します
仮に、遺産内容を以下のように分割したとします。
・配偶者:土地・建物(4000万円)
・子(A):現金・有価証券(2000万円) あわせて借入金(200万円)と葬式費用(300万円)を負担 = 1500万円
・子(B):死亡保険金(3000万円) – 非課税枠(1500万円) = 1500万円
相続税の総額に対して、上記の遺産分割割合に応じて案分して、各相続人個々の相続税を算出します。
・配偶者:225万円 × 4000万円 / 7000万円 = 128.6万円
・子(A):225万円 × 1500万円 / 7000万円 = 48.2万円
・子(B):225万円 × 1500万円 / 7000万円 = 48.2万円
上記のうち、配偶者については、配偶者控除により1億6,000万円までは相続税がかからないため、配偶者の相続税は0円になります。
補足1(相続時の資産配分)
ここで少しだけ補足を入れさせていただきます。
上記の例では相続税の計算がわかるよう具体的な計算例をあげましたが、必ずしも上記のような資産配分で相続をするのが望ましいわけではありません。以下に相続税が軽減できるようなケースを記載しましたので、相続時の資産配分を考える際には参考にしてください。
上記で説明しましたが、配偶者は配偶者控除により1億6,000万円までは相続税がかかりません。
そのため、現金や有価証券などの資産は配偶者控除が適用される配偶者に資産を配分をして、非課税枠がある死亡保険金などは配偶者が受け取るよりも子が受け取るように配分を考慮したほうが節税になることがあります。(例えば上記の例では、配偶者控除のない子(B)も、3000万円の受け取りに対して、1500万円部分の相続性しか支払いをしていません。)
大半の場合は 600万 × 法定相続人数 の基礎控除額が大きいため、相続税そのものが発生するケースは少ないですが、もし相続税が発生するような場合には資産分割の内容についても考えてみるとよいでしょう。
配偶者には、配偶者住居権という権利があります。これは配偶者が被相続人の財産である建物に住居していた場合、その住居していた建物を無償で使用する権利があるというものです。
上記の例のように、配偶者に土地・建物を相続すると、その配偶者が亡くなった場合、次に子が相続する必要があるため、2回の相続(=二次相続)が発生してしまいます。そのため、土地・建物は配偶者でなく子に相続をしてしまい、そこに居住する権利を配偶者に残すようにしておけば、次に配偶者が亡くなったときに2回目の相続が発生しなくて済みます。
元々は、相続人同士でもめてしまい、配偶者の居住する場所がなくなってしまうことを避けることが目的なのですが、うまく活用することにより、相続税の支払いを少なくすることもできます。
補足2(死亡保険金にかかる税)
本記事の説明で死亡保険金を相続税の対象として計算例をあげましたが、実際に死亡保険金の受取時に発生する税金は、「相続税」「所得税」「贈与税」のいずれかになります。
どの税金が課税されるかは、契約者・被保険者・受取人が誰かで決まります。(下表参照)
- 相続税の対象となる場合
亡くなった故人が保険の契約者(保険料負担者)で、法定相続人などが保険金を受け取る場合、故人の資産を相続する形となるため、「相続税」が適用されます。 - 所得税の対象となる場合
亡くなった個人の配偶者などが契約(保険料を負担)していた保険契約で、契約者本人が保険金を受け取る場合、保険金受取人が所得を得る形となるため、「所得税」及び「住民税」の対象となります。 - 贈与税の対象となる場合
亡くなった個人の配偶者などが契約(保険料を負担)していた保険契約で、契約者以外の方が保険金を受け取る場合、保険金受取人が契約者から資産を贈与された形となるため、「贈与税」が適用されます。