老後資金 -退職後の変化について-

リタイアメントプランを考えるにあたり、会社員の方が退職をされたときの収支の変化ついて整理しました。
定年退職のみならず自己都合退職などの場合も当てはまりますので、定年を待たずに早期リタイアする場合にも参考にしてください。

 

税金・社会保障費

年金保険料の負担

会社を退職したとき、支出額が変わる点の1つとして、年金保険料の負担が挙げられます。
2024年9月現在、国民年金保険料の支払いは60歳までとなっています。そのため、60歳を過ぎてからの退職の場合は、それ以降に国民年金保険料は支払う必要はありません。(国民年金の支払期間が65歳まで延長される議論がありますので、今後変更になった場合は注意してください。)
また、厚生年金は会社を辞めた時点で第2号被保険者でなくなるため、厚生年金保険料を支払うこともなくなります。

 

一方、60歳未満で会社を辞める場合ですが、今までは会社の給与から厚生年金保険料が天引きされていましたが、会社を退職すると厚生年金の代わりに国民年金を支払う必要が出てきます。その場合、以下の2パターンの選択肢となります。

  • 厚生年金から国民年金に切り替える
    会社を退職すると、国民年金保険料を自分で支払う必要がでてきますが、国民年金保険料は1カ月あたり16,980円(2024年時点)となり、その分の支出が発生します。
    また、今まで配偶者を扶養に入れていた場合、第3号被保険者として配偶者は国民年金保険料の自己負担がありませんでしたが、配偶者の扶養が外れるため、配偶者の国民年金保険料も支払う必要がありますので注意してください。
  • 第3号被保険者として配偶者の扶養に入る
    もし、配偶者が第2号被保険者で自分の見込み年収が130万円以下の場合、配偶者の扶養に入ることが可能です。
    その場合、国民年金保険料の自己負担はありませんので、配偶者の扶養に入れるかどうか確認してみましょう。

 

健康保険料の負担

次に健康保険料の負担額の変更について考えます。

健康保険は、75歳になると全ての人が後期高齢者医療制度に組み込まれるのですが、75歳未満の方は働き方によって加入する健康保険が変わってきます。具体的には、自営業者・退職者・無職者が加入する「国民健康保険」と、企業で働く人が加入する「被用者保険(健康保険組合、協会けんぽなど)」に分かれます。

会社を辞めた場合、今までは会社の給与から健康保険の保険料が天引き(しかも半額は会社側で負担)されていましたが、会社を退職すると加入する健康保険を変更する必要が出てきます。その場合、以下の3パターンの選択肢となります。

  • 国民健康保険に切り替える
    会社を退職した場合、一般的には国民健康保険に切り替えることになります。国民健康保険の保険料は、収入やお住まいの地域によって変わります。インターネット上で国民健康保険料の算出ツール等があるので、ご自身で計算してみるとよいでしょう。
    なお、今までご家族を被保険者としていた場合、ご家族分の国民健康保険の保険料も支払う必要がありますのでご注意ください。
  • これまでの健康保険を任意継続する
    今まで加入していた健康保険を任意継続することも可能です。この場合、継続可能期間は最大2年間となります。
    なお、今までは保険料の半額を会社側で負担してくれていましたが、会社側負担がなくなるため、保険料は従来の2倍となります。なお、扶養家族が何人いても保険料の負担額は変わりません。
  • 配偶者の扶養に入る
    もし、配偶者が第2号被保険者で自分の見込み年収が130万円以下の場合、配偶者の被扶養者として、配偶者が加入している健康保険組合に入ることが可能です。この場合、健康保険料の負担はありませんので、配偶者の扶養に入れるかどうか確認してみましょう。

 

住民税、所得税の手続き

住民税、所得税については、今までは給与から差し引かれていましたが、自身で支払うように手続きをする必要があります。

住民税については、退職した月の翌月以降分については、自分自身で納付の手続きを行う必要があります。(ただし、退職時期が1月1日~5月31日の間の場合、退職付きの給与又は退職金から5月分までの住民税が差し引かれますので、6月以降の住民税について手続きを行います。
なお、住民税は「前年の所得額」によって税額が決まるため、前年に多くの収入を得ていた場合は、退職により収入額が減っても多額の住民税を納める必要があるので注意してください。

 

所得税については、毎月の給与から源泉徴収で差し引かれていましたが、退職後は自分自身で確定申告を行うことになります。ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払者に提出すれば、源泉徴収だけで退職金などの課税関係の手続きは終了します。また、退職後に、そのまま公的年金を受給する場合は公的年金にかかる所得税は年金から徴収されますし、転職等で別の会社に移られた場合は転職先の給与から徴収されますので、基本的に確定申告する必要はありません。
なお、退職により収入が少なくなった場合でも、住民税のように「前年の所得額」によって税額が決まるものではなく、「その年の収入額」によって確定申告するものなので、収入が減ったらその分だけの所得税を納めれば大丈夫です。

ちなみに、生命保険料控除、受託ローン控除、医療費控除などが受けられたり、扶養親族の申請をしている場合は、退職までに源泉徴収で所得税を納めていたとしても、きちんと確定申告をして税金の還付を受けたほうがいいでしょう。

 

 

失業・再雇用に伴う制度

失業手当

勘違いしないように最初に説明しますが、失業手当は「失業をしてしまい、次の仕事を探している(求職活動をしている)が、就職先が決まらない」という方に支払われる手当です。完全リタイアを決め込んでいるのであれば支給対象とならないので注意しましょう。(就職活動をしている「実績」が必要になります。)

 

失業手当は、離職前給与のおおよそ50%~80%(60歳~64歳は45%~80%)の額が支給されます。なお、賃金が低かった人ほど高い率となります。なお、支給上限額も決まっており、45歳以上60歳未満の場合で日額8,355円、60歳以上64歳未満で日額7,177円が支給上限となります。

また、雇用保険に加入していた期間や年齢によって支給期間が変わってきます。雇用保険に20年以上加入していた場合、倒産・解雇などの理由での離職の場合、45歳以上60歳未満の場合で330日、60歳以上64歳未満で240日です。また、倒産・解雇などの特定理由によらない退職の場合、年齢に関係なく150日間となります。

 

もし、離職後に再就職をしようとしてるのであれば、失業手当の申請をしておくとよいでしょう。ただし、60歳以降の再就職の場合、以下の「高年齢雇用継続給付金」のほうが多くもらえる場合もありますので、再雇用までの失業期間と、再雇用後の給与や雇用期間の見込みから、「失業手当」とあわせて「高年齢再就職給付金」を最大2年間受け取るか、「高年齢雇用継続給付金」を65歳まで受け取るかを考えるとよいでしょう。

 

高年齢雇用継続給付金

上記で少し触れましたが、60歳以降で再就職となる場合で、前職の賃金より75%未満となる場合は、「高年齢雇用継続基本給付金」が受け取れるので申請するとよいでしょう。ハローワークに申請をすることで、65歳の誕生月まで最高で毎月賃金の最大15%が支給される制度です。(賃金の低下率が大きいほど支給率が高くなります(前職の賃金の61%以下になると最大の15%が支給されます))

なお、退職後に失業保険を受けていた場合は、「高年齢再就職給付金」となり、失業保険の残日数により最高で毎月賃金の15%が支給されます。この場合、失業保険の残日数が200日以上なら2年間、100日以上なら1年間しか支給されません。(100日未満の場合は支給対象外となります。)

※「高年齢雇用継続基本給付金」による支給額は、和7年4月1日から最大10%(前職の賃金の64%以下の場合)に変更となります。

 

 

会社からの受け取り

会社からの退職時、退職金や企業年金の受け取りについて説明があると思います。会社によって制度は違いますが、退職前にご自身の退職金や年金額を知る方法はあると思いますので、具体的な金額や支給方法を確認されておくとよいでしょう。

また、会社によっては、退職金や企業年金以外にも、共済会に加入していれば共済金が支払われたり、従業員持株会に加入していれば自社株を得ることができます。ご自身の会社でどのような制度に加入していたかをあらためて確認するとよいでしょう。

 

上記の会社からの退職金と、公的年金を含めた年金が、リタイア後の生活資金となりますので、定年退職にしろ自己都合退職にしろ、会社を辞める前にどの程度の支出が必要になるか、おおよその検討をしておくとよいかと思います。