これまでの記事で、年金制度の概要を説明してきました。
自営業者の方(第1号被保険者)や、会社員の方(第2号被保険者)によって、国民年金や厚生年金、私的年金など加入できる年金制度に違いがあることはご理解いただけたかと思います。
今回の記事では、公的年金制度について「加入して損はないのか」という懸念がある方に向けて、さまざまな観点から考察を記載していきたいと思います。
年金制度は「保険」である
まず最初に、年金制度は「保険」であるということを再認識してみましょう。
国からもらう年金(公的年金)といえば、高齢者世代のものだと思われていますが、実は20代や30代の若者世代も年金制度の恩恵を受けることができます。
年金制度の記事でも記載しましたが、年金制度には「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」という3種類の保証が備わっています。そのため、年金制度は長生きだけでなく、病気やケガで障害を負ったり、一家の大黒柱を亡くしたりといったリスクにも対応しています。
「障害年金」は病気やケガなどで障害が残り、長期にわたって働けなくなったときに自分の生活を支えてくれます。「遺族年金」は大黒柱が亡くなったときに、残された子や配偶者など家族の暮らしを補うものです。そのため、年金制度のうち障害年金や遺族年金は、若くても受け取ることができる年金制度になります。
また、「老齢年金」は、生涯にわたって老齢年金を受け取れる制度となっており、自身が高齢になり働けなくなったとしても、死ぬまで老齢年金を受け取ることができます。そのため、自身が「長生きしてしまうリスク」に備えることができる「保険」であると考えるとよいかと思います。
3つの給付を受けている人の数は、老齢年金が約4000万人、障害年金は約225万人、遺族年金が約670万人です。年を取ってから受け取る老齢年金が圧倒的に多いので「年金=高齢者のもの」といったイメージがありますが、障害や死亡のリスクは若いからといって無縁ではありません。
障害基礎年金の受給者の約4分の1が20〜30代です。意外に身近な給付だと知っておくとよいでしょう。
日本の年金制度は、長生きすることのリスクや、死亡/障害となった場合の保証という意味で、人生への安心感を与える保険商品を購入していると考えるべきかと思います。そのため、あまり損得勘定(他の世代との比較や、支出額と収入額での損得など)で考えるものではないかと思います。
保険料の負担方式について(賦課方式)
賦課方式とは…
年金は保険料を国民全員で出し合い、不測の事態が起こったときに一定の金額を支給して暮らしを支える社会保険です。20歳になるとすべての人に加入が義務付けられ、決められた保険料を納めなければなりません。「年金なんて遠い将来のこと」「自分には関係ない」などと保険料の納付を怠っていると、万一のときに受け取れないこともあるので注意が必要です。
日本の年金には「生涯にわたって受け取れる」こと以外に「将来のお金の価値の変化に対応できる」といった特徴があります。根底に「世代間の支え合いの仕組み」があるからです。
具体的には「賦課方式」と呼ぶ財政のスタイルです。年金支給に必要なお金を、そのときの現役世代の保険料でまかなう方式です。この方式により、例えば想定を超えるインフレや賃金の上昇があっても、その時点の現役世代が納めた保険料をもとにしているので、実質的に価値のある年金を支給することができます。欧米の主要各国も賦課方式を基本にしています。
自分の将来の年金は自分で積み立てる「積み立て方式」の方が合理的だと言う人もいるでしょう。ただ、前述のような想定外のインフレなどがあった場合、積み立てていたお金の価値が下がり、インフレに見合った年金の支給が難しくなります。
今の高齢者が納めた金額と受給額を比較すると何倍にも増えているのに、これからの若者はそこまでもらえない。という話もありますが、高齢者が高度経済成長時に収めた1,000円と、現在の1,000円の価値が全く違うので、世代間で比較することにはあまり意味はないと思った方がいいかと思います。
「賦課方式」の問題点と見直しについて
上述した「賦課方式」について、インフレを考慮した場合に有益な制度であると記載しましたが、この「賦課方式」制度の運営では、年金を受け取る高齢世代と保険料を納める現役世代の「人口構成」が重要になります。
「賦課方式」は、年金支給に必要なお金を、そのときの現役世代の保険料でまかなう方式であるため、バランスの良い人口構成であることが必要になってきます。そのため、現在の日本や一部の先進国でみられる「少子高齢化」の影響はもろに受けてしまいます。若年層から年金制度への不安が上がっていることの理由として、高齢者が増えて、若い世代だけでは支えられなくなるとの見方が広まっているのもうなづけます。
実際に日本の場合、急速な少子高齢化でこのバランスが崩れ、現役世代の保険料負担がどんどん膨らんでしまうという懸念が強まりました。そこで、長期的な収入と支出のバランスをとるために、2004年度に以下の内容で大きな制度の見直しが実施されています。
【見直し内容】
①将来の負担(保険料)の上限設定
②財源の範囲内での給付水準の自動調整
③基礎年金における国庫負担割合の引き上げ
④積立金の活用
上記の①~④について具体的に見ていきましょう。
最初の「①保険料の上限設定」ですが、以前は高齢者に支給する年金の総額に見合った保険料を現役世代から集めていましたが、保険料の上限を定め、その範囲内でやり繰りする方式に変えました。そのため、少子高齢化が現在以上に進んでいったとしても、上限額以上の保険料を支払うという心配はなくなりました。
次に、「②給付水準の自動調整」として、現役世代の人数と平均余命の変化を基にした給付額の調整がされる仕組みが導入されました。具体的には、年金が増える局面では年金の引き上げ率からこの調整率を引いて支給額を減らし、制度を長持ちさせようという趣旨です。
3番目の「③国庫負担割合の引き上げ」ですが、賦課方式ではありますが、実はすべての年金財源を保険料でまかなっているわけではなく、税金(国庫負担)が投入されています。この税金負担分について、当初は基礎年金(国民年金)の3分の1程度でしたが、約2分の1程度に引き上げられています。
その結果、おおよそですが、国民年金では約35%が保険料で、約46%が税金(国庫負担)、約20%が積立金などのその他収入とという割合となっており、保険料収入で賄う金額が相対的に低くなっています。
なお、厚生年金では、約65%が保険料、約20%が税金、約15%がその他収入です。
最後は「④積立金の活用」です。「年金積立金」として、保険料収入のうち、それまで年金の給付に使われなかった収入額の一部を積み立てている財源があるのですが、このうち、保険料収入と税金で足りない部分を積立金の運用収益などでカバーすることにしました。
また、この年金財政の検証が、少なくとも5年ごとに実施されます。定期的に検証がされることにより、年金制度を長期的に維持できるようになる仕組みになったと言えると思います。
これらの改革によって、少子高齢化を迎えた現在において、年金財政は安定したと言えるのではないでしょうか。
「年金制度はいずれ破綻する」と言われることがありますが、誰も年金制度が破綻することは望んでいません。上述した通りに、年金制度を維持するための様々な制度見直しが実施されています。SNSなどで不安をあおる記事が多い時代ですが、安心できるものと不安があるところは、しっかりと自分の目で見極めていきましょう。
年金制度だけで生活ができるのか
最後に、受け取る年金額で生活ができるのか。という点について記載をします。
結論から言うと、受け取る年金額がいくらになるかは自分次第です。自分自身や配偶者が高齢になっても安心して生活ができるように、現役世代のうちに老後の生活を含めたライフプランニングをして、備えていくことが大切です。
自分は年金だけでは生活できないと、年金制度の良し悪しを評価する人もいますが、年金だけでは生活できる人やお金の心配をせずに生活ができている方は、現役世代にうちに十分な準備をしていた方がほとんどです。
他国を見ても、例えば北欧等の高福祉制度を持つ国でも、年金生活者の安心度はかなり高いですが、それでもすべての人が全くお金の心配をせずに生活できるというわけではありません。日本でも年金制度は整っていますので、各種制度を理解して十分に活用していくようにしましょう。
まず、老齢厚生年金に加入している人に向けて説明しますが、老齢厚生年金は原則として高い報酬で長く加入するほど受け取る年金額が増えます。年金額はあらかじめ決まっているのではなく、自分で「つくる」ことができるわけです。現役世代に頑張って働いた結果が、年金額の増額につながることになります。高収入者であればあるほど、徴収される年金額は多いですが、その分受け取れる年金額も多くなります。
また、老齢基礎年金(国民年金)は保険料を納めた期間に比例します。保険料を滞納していると年金を受け取れなくなったり、受け取ることができても金額が少なくなったりします。そのため納付義務が発生する20歳になったら滞納することなくコツコツと納めることが大切です。なお、学生で収入がない場合や、家計が苦しいときなどには、納付を免除したり、先送り(納付猶予)したりする制度もあるので、知っておくとよいでしょう。
自営業者などで国民年金だけの場合は、どうしても会社員のように厚生年金にも加入している人と比べると年金額は少なくなります。そのためにも、iDeCoや個人年金等にも加入をして積極的に自分の年金額を増やしていくように努めることも大切です。
とはいえ、全ての方が高収入者として働けるわけでもないですし、ご自身が病気や入院で仕事ができなくなったり、事業環境の悪化などで収入がなくなってしまい年金納付ができないという場合もあるでしょう。そのような場合は、ご自身や家族の支出額を見つめなおして、年金収入額と貯蓄の切り崩しで生活ができるレベルに支出額をおさえていくことも重要になります。
さいごに
年金を質の悪い運用商品のように言う人もいますが、そんなことはありません。年金より有利な商品はほかに見当たらないと言っても過言ではありません。
日本の年金制度は、「賦課方式」という世代間の支え合いの仕組みになっているのですが、インフレや賃金の上昇があっても、その時点物価にあわせた支給をすることができ、欧米の主要各国も賦課方式を基本にしていますので、決して良くない制度ということではありません。また、少子高齢化に伴い、「賦課方式」を継続するための世代間バランスが悪くなっている点についても、上述した通り、制度の見直しがあり持続可能な年金制度になっていると言っていいと思います。
なにより、「年金制度は保険である」と言いましたが、仮に長生きをしてしまったとしても年金収入があるという安心感は何よりも代えがたいものです。
とは言え、老後の生活費の不安はなかなかぬぐえないと思いますので、現役世代のうちから年金生活を含めたライフプランを立てていくことをお勧めします。